「農鳥岳は山頂の景色が本当に壮観なんです。富士山も北岳も見える。甲府盆地も眺められて、暗くなると夜景も見えるんですよ!途中にはかなりの急登も!もっとみんなこの良さに振りむいてくれよって思います(笑)」
そう話してくださったのは、大門沢小屋主人の深沢勇樹さん。南アルプス・農鳥岳の魅力についてお話をうかがいました。広河原から出発して、北岳、間ノ岳、農鳥岳へと縦走するコースは登山者の間ではメジャーですが、奈良田発のコースは熟練者も唸る急登と絶景を味わえる穴場コースでなかなかすごいのだとか!
3,000m級の高山を多く擁する南アルプスは、日本有数の山岳エリアで、登山好きならきっと1度は目指す場所。もうすでにいくつか登っているよという方も、この記事でご紹介する深沢さんのお話から、ぜひ農鳥岳や南アルプスの新たな楽しみ方や魅力を発見してみてください!

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プロフィール

大門沢小屋主人・深沢勇樹(ふかさわゆうき)
1997年、山梨県生まれ。高校の長期休みなどには、曽祖父から代々継承されてきた大門沢小屋で父の手伝いをしながらも、卒業後は自動車整備士を目指して上京し、専門学校へ進学。父の他界をきっかけに、山梨県に戻り、2018年に4代目主人として山小屋を引き継ぐ。
大門沢小屋(だいもんざわごや)
山梨県早川町奈良田の登山口から約4時間35分、標高1,765m(※)の場所にある、森林に囲まれた山小屋。富士山が真正面に眺められるロケーションで、最寄りの山は、農鳥岳、間ノ岳、北岳、笹山。
水が豊富で、無料で水くみができ、温水シャワーも完備している。施設の詳しい情報は下で紹介。
出典(※):大門沢小屋公式ウェブサイト
南アルプス3,000m級の山・農鳥岳とは?
山梨県と静岡県にまたがってそびえる標高3,026m(※1)の農鳥岳。標高3,051mの西農鳥岳と本峰の農鳥岳と合わせて「農鳥岳」と扱われることが多くあり(※2)3,051mの標高で見ると、日本でトップ20位内の高さに入る高い山です。
6月下旬頃に山頂東面に鳥の形の雪型「農鳥」が現れ、昔はそれを見て農家が田植えを始めたという話が、山の名前の由来。
農鳥岳は、国内屈指の高峰が連なる「白根三山」の1つとしても有名で、北側に標高3,190mの間ノ岳(あいのだけ)、さらに北に標高3,193mの北岳(きただけ)と3つの山がそびえます。
ちなみに北岳は、日本最高峰の富士山に次いで第2位の高さを誇り、間ノ岳は第3位。ハードな山々が連なる山岳地帯なのです。
ちなみに「山梨山のグレーディング」(※3)によると、農鳥岳登山の難易度はかなり高めで、広河原からのコースも、奈良田からのコースも(コースについては次に紹介)体力度レベルは10段階の内の7(10に近づくにつれてレベルが高くなる)、技術的難易度のレベルはA〜EのうちC(Eに近づくにつれ難易度が上がる)。中・上級登山者向けといえるでしょう。
壮大な稜線や、開けた大展望、さまざまな高山植物や野鳥など、ここだからこそ見られる景色が、多くの登山者を魅了してやみません。
出典(※1):国土交通省 国土地理院
出典(※2):山と渓谷社 YAMAKEI ONLINE(ヤマケイオンライン)
出典(※3):山梨山のグレーディング
大門沢小屋主人おすすめの農鳥岳への穴場コース

大門沢小屋主人の深沢さんにお話をうかがうと、北岳、間ノ岳、農鳥岳の白根三山を目指す登山者は、広河原から3つの山を縦走する人が多いとのこと。
こちらのコースはメジャーで人気もあり、もちろんおすすめとのことですが、縦走ではなくあえて王道を外しておすすめするなら、奈良田出発で大門沢小屋に1泊し、翌日農鳥岳山頂を目指すコースが穴場とのこと。
それぞれどのようなコースなのでしょうか?以下、話し手は深沢さん、聞き手はクシダユリです。
広河原から登るメジャーで人気の縦走コース(2泊3日)

クシダ:広河原のコースで来る人の方がなぜ多いんでしょう?

あと、メジャーな広河原からのコースは、いろいろと情報も出回っているので、みんな予備知識を十分入れてから挑みやすいっていうのもあるでしょうね。
穴場でおすすめな奈良田から登るコース(1泊2日)
クシダ:深沢さん的におすすめのコースはありますか?

上級者で慣れている方だったら、早朝に奈良田から登り始めて農鳥岳山頂まで行き、がんばれば日帰りでもいけるんですが、無理をしないスケジュールにするなら、1泊2日で予定して、1日目は大門沢小屋を目指して来て1泊するのがいいでしょう。
余分な荷物は大門沢小屋に預けることもできるので、翌日は身軽に農鳥岳の山頂まで登れます。下山するときは、忘れずに荷物を回収して下りてもらえたら。
登りはすごく急なんですが、下山はひたすら下り坂で早いんですよ。
クシダ:地図を見ると、奈良田第一発電所から大門沢小屋まで約4時間ですが、これよりもぐっと距離が短そうに見える大門沢小屋から大門沢下降点までも同じく4時間なんですね!

「日本三大急登」を目指すばかりじゃなくて、もっとみんなこっちも見てくれよって感じです(笑)
クシダ:なるほど、奈良田から農鳥岳のコースは、登山が好きな方にとっては知られざる穴場スポットなんですね!

広河原もそうですけど、他のところって、だいたいが公共交通機関などを使わないと登山口まで行けないですから。
奈良田から農鳥岳の道中の見どころ

クシダ:道はやっぱり大変ですか?

一部、石がごろごろしている道があったり、丸太を渡ったりという道はありますが。
クシダ:やっぱりちょっとハードそうですね…(笑)。景色はどうですか?

視界が開けて、雲も出てきてまるで空の上のような感じになってきます。沢がなく水もないので、完全な無音の世界になるんですよ。
さらに農鳥岳の山頂まで行くと、日本1位2位の富士山と北岳が見える。甲府盆地も眺められるので、夜になると夜景も見渡せるんですよ!すごくきれいなんです。
登山というと日本百名山が人気で、まずそこを目指す人が多いですが、こんなにきれいな農鳥岳がなぜ日本百名山に入ってないのか!(笑)マイナー気味ですが、本当にいい場所なんですよ!
クシダ:農鳥岳は登山レベルも高めで、2泊3日だと時間的にも長くて挑戦するには勇気がいりますが、1泊2日なら、なんとかがんばれそうです!
3,000m越えの農鳥岳の景色を私も生で見てみたいです。
大門沢小屋について
ここからは、深沢さんの経営されている大門沢小屋について、そのルーツや今後の山小屋の展望をお聞きしました。
大門沢小屋のルーツ

クシダ:大門沢小屋はどんな山小屋ですか?

さらに5、6年経って、畑のあるあたりに(国母)工業団地ができるということで、畑の土地を売って莫大な資金を得て、本格的に大門沢小屋をするようになったそうですね。昭和40年頃のことです。
最近、たまたま親戚から山小屋のルーツやひいおじいちゃんがどんな人だったのかを聞いたんですが、どういうきっかけで山小屋が始まったのかは僕は父の生前には聞いたことがなかったんで、祖父も祖母も父も亡くなってからルーツを聞いて、なんとなく感じるものがありました。
クシダ:ひいおじいさんはすごくアツイ方だったんですね。情熱がすごい!

景色も僕的には、本当にきれいでいいなと思っていて。ぱっとひらけていて、山小屋のど真ん中から富士山も見えるし。このロケーションも、ひいおじいちゃんがここにしようって決めた感じがすごく伝わるんですよね。
大門沢小屋らしさ残して改良を模索中

クシダ:大門沢小屋はこれからどんな山小屋にしていきたいですか?

大門沢小屋は古いので、昔はそれが嫌だと思うこともありましたが、今はアンティークや古いものの良さがわかるようになってきて、大門沢小屋のこともいいなと思うようになりました。
この山小屋の味や良さを残しながら、できることから改良していけたらと思っています。
例えば、去年は食事のメニューを一新しました。前は甘露煮を出していたんですが、一昔前の定番といった古さを感じるようになり、一方、他の山小屋では下界の定食屋さんと変わらないようなメニューを出しているところも多いため、うちも変えました。
宿泊の食事は鯖の塩焼きやチキントマト煮がメインでデザートや小鉢のついた定食、ランチはラーメン、牛丼、カレー、そば、ほうとうなどを提供しています。
工事もして、部屋でぎゅうぎゅうの雑魚寝スタイルから、ロフトをつけてカプセルホテルのように1人1人板で完全に仕切って寝られるようにもしました。
また、下界の暮らしと違って、設備の故障や非常事態には自身で対処しないといけないので、オフシーズンには大工仕事をしたり、非常事態に備えて救助の勉強もしています。
クシダ:いろいろと模索されているんですね! 4代目深沢さんによるこれからの大門沢小屋も、とても楽しみです。
大門沢小屋の施設情報
名称 | 大門沢小屋 |
料金 | 1泊2食(シャワー付き):9,500円/人
1泊2食:9,000円/人 1泊1食:8,000円 寝具付き素泊まり:7,000円/人 素泊まり:6,000円 幕営(テントサイト):1,000円/人 休憩(小屋内利用):500円/人 |
住所 | 山梨県南巨摩郡早川町奈良田354 |
アクセス | 奈良田まで:《電車》身延駅から奈良田温泉行きバスで「奈良田温泉」下車、《車》下部温泉早川ICから約50分 |
シーズン | 7月1日〜10月中旬頃 |
電話番号 | 090-7635-4244(7:00〜18:00) |
その他 | 水場あり(無料)、スマホ・インターネット電波なし |
URL | https://www.daimonzawa.com/index.html |
【大門沢小屋と出発点となる奈良田】
登山の注意点
・登山の前には、地域の警察署に「登山計画書(登山届)」を提出しましょう。
・遭難を想定して、ヘッドランプや保温用のウエア、コンパスや地図などの装備をしっかりしましょう。
・単独での登山はできるだけ避けましょう。
・天候が悪い日は中止しましょう。
・山小屋には理想は15時までに到着。遅くても16、17時までには到着しましょう。
まとめ
今回は、大門沢小屋の主人、深沢勇樹さんにお話を聞かせていただきました。農鳥岳や周辺の北岳、間ノ岳について、行ってみたいと思えるような新たな発見を見つけられたでしょうか?登山の際には適切な装備をして、注意点に気をつけながら、たっぷりと南アルプスを楽しんでください!