早川町 観光

雨畑の硯職人・中川裕幾さんに聞く硯の世界!硯匠庵の楽しみ方や周辺キャンプ場や温泉も紹介

日本三大硯石産地の一つである早川町雨畑。ここでしか採れない「雨畑真石」は、なめらかな墨あたりや、墨液の持ちの良さなどを誇る、和硯の最高級原石です。現代では硯に触れる機会は減っていますが、今でも日々制作されています。

今回は、現在修行をされている硯職人の中川裕幾さんにお話を伺い、普段なかなか知り得ない雨畑硯の奥深い世界について迫ります。

また、さまざまな硯の展示販売や体験が可能な硯匠庵(けんしょうあん)や、その周辺施設のキャンプ場や日帰り温泉なども合わせてご紹介。ぜひ一度は訪れてほしいおすすめスポットです!

「雨畑硯」とは?

硯匠庵

早川町雨畑では、「雨畑真石」という、硯に適した高品質な天然石が採掘され、この石で作られる雨畑硯は素晴らしい和硯として、名高く知られています。なぜそこまで雨畑硯が特別なのでしょうか?ここで解説していきます。

「雨畑真石」とは?

雨畑真石

まず、硯となる原石の「雨畑真石」とは、早川町雨畑で採掘される頁岩(読み方は「けつがん」または粘板岩とも)です。頁岩とは、泥が堆積してできたものが、さらに変成した石のこと。

雨畑で採掘されるこの頁岩は、特に粒子が細かく、硯石として優れていることから「雨畑真石」と特別な名称が付けられています。また、強力な遠赤外線を放射する特性を持つため、雨畑ブラックシリカとして顔などのマッサージに使うかっさや、コーヒースプーンなど、遠赤外線の効果を活かせるグッズにも使われることがあります。

「雨畑真石」を使うと良質な墨液を作れる

硯はご存じの通り、墨をすって墨液を作る道具ですが、仕組みとしては大根を、おろし金ですりおろすのと同じイメージ。肉眼では見えませんが、硯の表面には、ヤスリの役割をするもの=「鋒鋩(ほうぼう)」があり、それによって墨をすることができます。

おろし金のとげとげが細かく均一に並んでいるほど、なめらかな大根おろしができるのと同じように、「雨畑真石」の表面には、細かく均質な鋒鋩がたくさんあるため、墨あたりや墨おりに優れた良い墨液を作れます。さらに、雨畑真石は硬度があるため、鋒鋩がへたらず、硯自体が長持ちします。

「雨畑真石」を使うと墨液の持ちが良い

また、「雨畑真石」は、水分の吸収が少ないのも特徴。普通の硯なら、数時間ほどで墨液が硯の表面に吸収されてしまいますが、「雨畑真石」の硯は、一晩おいても液がなくならないといわれるほど、墨液の持ちが良いのです。

「雨畑真石」から作った硯は「硯匠庵雨畑真石」

雨畑硯とは、もともとは雨畑でのみ採掘される雨畑真石から作られた硯のことを指します。しかし、質の良い和硯としてその名が全国で知られるようになると、「雨畑硯」の名称が一人歩きをし、雨畑真石ではない硯も「雨畑硯」という名で出回るように。

雨畑真石自体は、雨畑川上流の稲又山付近の石層から採れる、限りある天然資源。これで作られる硯は、とても希少価値があります。そこで、「正真正銘の雨畑真石で作られた硯」の存在を守るために、「硯匠庵雨畑真石」という名称で特許を取得し、本物には硯の裏にその名称が彫られます。

本物の雨畑硯を生産・展示・販売する「硯匠庵」

硯匠庵の外観

雨畑真石を使って「硯匠庵雨畑真石」の硯が生産され、展示や販売などもされているのは、早川町雨畑にある「硯匠庵」。

施設名硯匠庵
営業9:00〜17:00 定休:火
住所山梨県南巨摩郡早川町雨畑709-1
電話0556-45-2210
ウェブサイトhttp://amehata.suzurinosato.com/taiken.html

雨畑真石は貴重ですが、雨畑で硯を彫る硯職人も現在は2人のみと貴重な存在に。そのお2人とは、ベテラン職人の望月玉泉さんと、そのお弟子さんで、今回お話を聞かせていただいた中川裕幾さんです。

なぜ硯職人の世界に足を踏み入れたのか、どのような気持ちで硯に向かっているのかなど、現在硯職人見習いとして修行をされている中川さんにお話を伺いました。

プロフィール:中川裕幾さん

中川裕幾さん
山梨県笛吹市石和町生まれ。2015年に早川町に移住。「NPO法人 日本上流文化圏研究所」に勤め、町の魅力発信や子どもキャンプなどの企画・運営などに携わる。2021年に退職後、同町内雨畑にて、前任者から引き継ぎ「硯の里キャンプ場」の管理人として、運営を行う。同時に、雨畑の硯職人である望月玉泉氏に師事し、硯職人としての道も歩み始め、現在修行中。

なぜ硯職人の道に進み始めたのか

中川さんと自作の硯

聞き手(クシダ):硯職人にはなぜなったのでしょう?書道をされていたとか、彫刻などの芸術の道を学ばれていたなどの背景があったのでしょうか?

中川さん
専門的に学んだことはないんだけど、「ものづくり」をやってみたいなという気持ちはずっとあったんだよね。習字に関しては、字が上手いとかっこいいから、いずれはやってみたいなと思ってた。

また、前職では町の魅力を発信する仕事をしていたのと、早川町に移住してからずっと暮らしてきたのがこの雨畑という地域だったから、硯をはじめ、雨畑の良さはよく知っていて、盛り上げたいなという想いがあった。

そんな想いを心に持ちながら、2021年には雨畑内の「硯の里キャンプ場」を前任者から引き継ぐという転機をむかえたんだけど、そんな折りに、硯匠庵のオーナーや地域の方々から「硯を作ってみる?」という話を振っていただいて。

「ものづくり」は、以前からやってみたいと思っていたことだし、硯は移住してからずっと近くで親しんできたものだったから、絶好のチャンスと思って、声をかけてもらったときは、もう心踊ったよ。

「良いんですか?!」って思わず何回も聞いちゃったくらい。

何世代にも渡って受け継がれてきた硯の文化を活かして、ここをどう盛り上げていこうか?っていう地域の方々の話の輪の中に入れるのもおもしろくて。仲間に入れてうれしいなとも思ったんだよね。

雨畑真石に触りながら感覚を得ていく硯職人

硯を彫る作業

クシダ:すごいですね!実際に修行を始めてどうですか?

中川さん
望月玉泉師匠に教えていただきながら、これまでに40個くらい雨畑真石で硯を作って、反復練習をひたすらしていて。作れば作るほど、体で習得する発見がたくさんあるよ。

例えば、最初よく「彫るときは石の目を見て」って言われたんだよね。

クシダ:「石の目を見る」とは…?

中川さん
石の目を見るっていうのは、石の割れやすい方向を見定めるっていうことだよ。石は薄い層の集まりになっていて、硬いところと柔らかいところがあるんだよね。

クシダ:「石」を「見」る。まさに「硯」という字そのものですね。

中川さん
そうそう。最初頭では、どうしたらいいのか理解はするんだけど、実際にやってみないとわからないんだよね。石を削ってみたり、割ってみたり、試行錯誤する中で、加工するときの体の使い方や感覚を、実感とともに理解していったよ。

それと、石によっては、ほんの少し他の鉱物が混じっていることもあって。

このことで、おろし金でいうと、トゲトゲが一つだけ飛び出しているような状態になるから、この面で墨をすると、きれいにすれない。

だから最初に石を見たときに、どの面を表側にするのかとか、どちらを墨がたまる方にするかなどを、考えないといけないんだよね。これを読み違えてよく失敗したなぁ。

一方で、この鉱物がキラキラッとしてみえるのが、デザイン的に良いねっていう人も中にはいるから、使う人の希望に沿うというのも大切になるんだけどね。

他にも墨液をつけて筆を拭うところの角をきちんと削って作ったり、面を均一に平らにしたりするのも難しい。

でこぼこになることや、彫りすぎて貫通させてしまうこともあったよ。やっていくうちに、自分に合った道具の使い方や力の加減なんかが少しずつわかってきたけど。きっとこれからも、いっぱい発見があると思う。

クシダ:日々たくさんの学びがあるんですね。将来は、どんな硯を作っていきたいですか?

中川さん
今は、採れた石の大きさや、石の目を見て、なるべく自然のままの原石の形を利用して硯を作るようにと思って、日々硯を彫っているよ。

将来的には、もっといろんな形の硯も作ってみたいし、自分の色を出せるようになりたいという気持ちもあるかな。

硯匠庵に行ってみよう!5つの楽しみ方

硯匠庵のテラスから見える雨畑湖

雨畑の硯匠庵では、望月玉泉さんや中川さんが硯制作をされているだけでなく、いろんな硯の展示や販売もしていて、希望者は硯作り体験もできます。

以下で5つの楽しみ方をご紹介しているので、直接雨畑まで来れる方は、ぜひ楽しんでみてはいかがでしょうか?

1. さまざまな硯の展示

硯匠庵

地元職人によって作られた「硯匠庵雨畑真石」の硯を中心に、シンプルなフォルムのものから、趣向を凝らした芸術作品のようなもの、驚くほど大きなものなど、さまざまな硯が展示されています。硯の博物館といって良いでしょう。

他の産地の硯と比較できたり、硯の知識や歴史などをパネルで学べたりもできます。

2. 1点物の硯の販売

雨畑真石から作られた硯

硯は全て、雨畑真石の原石から一つ一つ手作りした一点物。世の中に2つとして同じものはありません。大きさや、形、深さなど、さまざまな硯があるので、書道をされる方など、こだわりのある方は、自分のお気に入りの硯を見つけることができるでしょう。

3. 雨畑真石を使ったグッズの販売

硯匠庵内のショップ

遠赤外線を放射する雨畑真石の効果を実感できるような、かっさや、お風呂用のストーンぐい飲みなどが販売されているほか、雨畑真石から開発された釉薬を使った陶芸作家の作品パワーストーンとしてのブレスレットなど、他ではなかなか手に入らないようなユニークな商品も販売されています。

4. 硯に関連する体験

硯匠庵

気軽なものだと、雨畑真石の硯と他の石で作った硯で、それぞれ墨をすって、使い心地を体験したり、顕微鏡で石の表面を見て違いを観察したり、雨畑真石の表面に文字や絵を彫り、オリジナルストラップを作ったりといったことができます。

また、硯の制作体験(要予約)もできます。料金、予約など詳細は硯匠庵にお問い合わせください。

5. 楽しめる周辺施設の紹介

硯匠庵のすぐ近くには以下の見どころもあります。

硯の里キャンプ場

硯の里キャンプ場

お話を伺った中川さんが管理・運営をしています。バンガローや、ちょっとしたアスレチックなどもある、山の上の静かな穴場キャンプ場です。

施設名硯の里キャンプ場
営業9:00〜17:00 定休:火・水
住所山梨県南巨摩郡早川町雨畑495
電話070-4305-1551
ウェブサイトhttps://villa-amehata.info/

ヴィラ雨畑

昔の校舎の跡地に建てられたモダンな内装の宿泊施設。食事処や日帰り温泉も利用できます。

施設名ヴィラ雨畑
営業11:00〜19:00 定休:水・木
住所山梨県南巨摩郡早川町雨畑699
電話0556-45-2213
ウェブサイトhttps://villa-amehata.info/

雨畑湖とその上に架かるつり橋

雨畑湖とつり橋

硯匠庵のすぐとなりにつり橋の入り口があります。

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